ドイツの脱原発デモ「かざぐるまデモ」と福島

2018年2月22日

福島第一原発事故以降、脱原発を求めるデモが活発に行われました。その動きは日本国内に留まらず、海外へも広がりを見せています。とくにドイツの一部地域においては、毎年各地で行われる追悼式が政治団体も加わった反原発デモへと発展し、福島の現在に関するドイツ語での正確な情報がドイツ国民に伝わらないまま、福島について誤った情報やイメージが共有・拡散されています。

たとえば、2017年にベルリンで行なわれた「かざぐるまデモ」の告知文には次のような文章が記されています。

原発事故がもたらす影響は、人間にとっても自然界にとっても悲劇にほかなりません。この事故によって、何万人という人々が故郷を失いました。健康への危険性が高いのに、日本政府は子どもだましの除染をして、まだ空間線量の高い地域に住民を帰還させようとしています。 原発事故で汚染された地域はもう安全だということにして賠償金の支払いから逃れようとしています。そしてその間も、子どもや若者の甲状腺がん発生率は増加しています。

フクシマから 6 年 かざぐるまデモ 2017 in Berlin(「かざぐるまデモ」)http://kazagurumademo.de/2017/index_j.html

かざぐるまデモとは?

ベルリン在住の日本人からなる団体「さよなら原子力ベルリン(Sayonara Nukes Berlin)」とドイツ反原発市民団体「アンチアトム・ベルリン」および「自然友の会」は、2013年から毎年3月11日前後にドイツの首都ベルリンで反原発・反核デモを主催しています。デモは「ドイツ左翼党(Die Linke)」や「同盟90/緑の党」といったドイツの左派政党、および「グリーンピース ENERGY」、「IPPNW」や「ICAN」等の団体、そして日独友好や文化交流を目的とした団体が協賛しています。

ベルリン在住の日本人女性からなる「ベルリン女性の会(Japanische Fraueninitiative Berlin)」、日本から「のりこえねっと」代表の辛淑玉(シン・スゴ)氏、「レイバーネット」、現地の大学の日本語学科の学生など、日独韓をはじめとした多くの国の人々が、黄色の風車や放射能標識を掲げ、ブランデンブルク門を起点としたベルリンの中心部を練り歩きます。

※「のりこえねっと」は共同代表に、2014年に漫画「美味しんぼ」にて、鼻血が福島での原発事故での被曝由来であるかのような表現を拡散させた雁屋哲氏も名を連ねています。

参考リンク

フクシマから 7 年 かざぐるまデモ 2018 in Berlin 核の鎖を断ち切ろう!(「かざぐるまデモ」)http://kazagurumademo.de/index_j.html

福島原発事故4周年を控え、ドイツでもデモ(「原発いらない女たちのテントひろば~福島とともに」)
http://fukusimatotomoni.blog.fc2.com/blog-entry-368.html


ポツダム広場を出発するデモ隊(2016年、ベルリン)。横断幕には「福島・広島・長崎 被曝死ストップ」「福島とチェルノブイリは警告する:世界中原子力撤廃!」と書かれています。


ブランデンブルク門に停留する街宣車(2014年、ベルリン)。「ヒロシマ・ナガサキ・フクシマ/原子力は死をもたらす!」


「原発マフィア」が「フクシマの子供たち」の反対の声を封殺、東京オリンピックはガスマスク着用で挙行することになり、選手が全員苦しみ悶えながら死ぬという内容のパフォーマンス(2014年、ベルリン)。


日独合作パフォーマンス「核の結婚式」(2016年、ベルリン)。背後には多数の黄色い風車と「福島を忘れるな」の横断幕。

画像の出所

ベルリン脱原発かざぐるまデモ写真報告(「明日うらしま」)
http://tkajimura.blogspot.de/2016/03/bilderberichte-von-kazaguruma-demo-in.html

フクシマ3周年ベルリンの反原発抗議デモの写真報告(「明日うらしま」)http://tkajimura.blogspot.de/2014/03/foto-bericht-demo-in-berlin-am.html

主な問題点

・活動全体に、福島についての誤解にもとづく誹謗中傷の表現が多数見られます。こうしたパフォーマンスは災害当事者の人権と尊厳を大きく侵害します。

・「オリンピックはガスマスク着用で挙行することになり、選手が全員苦しみ悶えながら死ぬという内容のパフォーマンス(2014年)」は、2013年に決定された東京オリンピック開催を受けてのものです。これは福島のみならず日本全体に向けての誹謗中傷にあたるものです。

・実施された除染に対して客観的根拠なく、「健康への危険性が高い」「子供騙し」と呼ぶのは、実際に除染に携わった人々や現在福島に暮らす人たちの努力と客観的な成果を理不尽に否定し侮辱するものです。

情報の検証

・告知文にある「健康への危険性が高いのに、日本政府は子供騙しの除染をして、まだ空間線量の高い地域に住民を帰還させようとしています」との主張に客観的な根拠はありません。福島県内の避難指定が解除された地域での放射線量は現在、充分に低下しています。放射線被曝量はドイツ国内を含めた世界の一般的な数値と比べてもありふれており、「まだ空間線量の高い地域」「健康への危険性が高い」というのは誤りです。

・告知文には「子どもや若者の甲状腺がん発生率は増加しています」とありますが、これも正しい説明ではありません。子どもの甲状腺がんは「発症」ではなく、いままでに無い規模での皆検査にもとづく、いままでに無い規模での掘り起こしによる「多発見」であると、UNSCEAR(国連科学委員会)や日本学術会議をはじめ、多方面から何度も報告されています。

・デモの横断幕に見られる標語「ストップ被曝死」の訴えを福島に関連づける必要はありません。原発事故以降、福島第一原発由来の放射線被曝により亡くなった方は一人もおらず、健康被害を受けるほどの高線量被曝をした人もいません。福島では原発事故を間接的な原因とした震災関連死は増えておりますが、それは放射線被曝そのものが理由ではありません。

・日本で開催されるオリンピックにガスマスクを着用する必要はありません。選手全員が悶え死ぬことはもちろん、放射線被曝による何らかの健康リスクを懸念する必要も一切ありません。