「私は、子どもが産めますか?」
「福島の人とは結婚しない方がいい」 ――こんな言葉を、社会的影響力が強い公人が口にしました。
「私は、子どもが産めますか?」―― こんな質問を、福島の子どもがしなくてはなりませんでした。
被曝の影響は次世代に決して遺伝しません。このことは、広島と長崎のデータから明らかになっていることです。 また、福島では、世界平均を上回るような被曝をした住民がほとんどいなかったことも、実測データからすでに明らかになっています。
しかし、現在にいたるまで放射線被曝そのものによる健康影響が1例も確認されていないのにもかかわらず、あたかも健康影響や遺伝的影響の可能性があるかのような誤った情報や言説が未だに蔓延しています。これらの情報や言説は、次世代にも及ぶ深刻な差別にもつながりかねません。
農家や漁師、福島に住む母親たちへの嫌がらせ
福島に関する誤った印象を与えたり、住民の不安を煽ったりするような行為が数多く行われています。以下は、マスメディアにも取り上げられた例です。
・2015年10月、国道6号線の清掃(東京都から宮城県まで続く国道。一部帰還困難区域も通過するものの、清掃の行われたいわき市などは避難指示区域ではない)イベントを主催したNPO法人に対し、「人殺し」などの中傷・脅迫のメールや電話が1000件以上寄せられました。
・2016年2月、韓国での東北物産展示会に、地元環境団体が抗議し、会は中止に追い込まれました。その上、主催者は「福島のものを並べたこと」への謝罪も要求されました。
・2016年3月、福島大学の教員や立命館大学の学生らがアメリカで講演した際、地元の反原発団体が「(福島は安全ではないのに)安全であるかのようなPRをしに来た」などの中傷を行いました。
・2016年6月、九州の生協「グリーンコープ」が、イベント告知で東北6県から福島県のみを除外し、「東北5県」と表示しました。また、組織内の会報誌には「福島はレントゲン室」など、消費者の不安を助長する表記もありました。
・2016年7月、マレーシア人写真家が避難地域の住宅等に不法侵入し、無断で住居等の撮影を行い、その写真がCNNやガーディアンなどに掲載されました。
また、マスメディアには取り上げられていないものの、類似の行為は数多く存在します。
「福島の農家は農業をやめろ」といういわれのない中傷や、「福島の海産物が産地偽装されて出回っている」などの情報拡散をする識者もいます。
繰り返される報道被害
報道機関でも、福島に関する誤報やネガティブなイメージを与える報道、不公正な両論併記が行われました。
・2016年9月25日、毎日新聞が福島県内のダム複数箇所の「検出器の検出限界値」をすべて足し、実際の数値とは無関係かつ高い数値を報じ、後に事実誤認を認めて訂正しました。(なお。福島の水道水の数値は1ベクレル/L未満)。
・2016年12月28日、朝日新聞が「小児甲状腺がん、県外でも重症例」と報じました。これは「事故由来の小児甲状腺がんが多発している」と主張する特定民間団体の活動を紹介する記事でした。
マスメディアや雑誌の場合、明らかな誤報ではなく、科学的に正しくない主張を持つ民間団体や識者の意見を、科学的な正しい情報と同程度かあるいは前者を大きく報じることによる「ネガティブなイメージ」を受け手に与えるものが多くなる傾向にあります。
こういった傾向が如実にあらわれたのが、事実を一部のみ切り出した朝日新聞の「吉田調書」報道でした。また、多くの出版物やフィクション作品では、さらに明確に誤った情報や福島に関するネガティブなイメージを表現するものが見られます。
二次被害に苦しむ福島の人びと
2011年3月11日。福島県は、地震と津波、そして原発事故という複合的な災害に見舞われました。その上にさらに今、上記のように誤った情報の拡散や風説の流布による経済的被害、そして心理的な被害を受けています。
福島県で今も続く「3・11の被害」は、「一次被害」(実害)と「二次被害」(社会的被害)に分けられます。
一次被害とは、地震・津波の死傷者、高齢者等の避難過程の死傷者、家屋・コミュニティの喪失、事業者の営業停止、作物からの放射性物質基準値超えによる出荷停止などです。
二次被害とは、避難経験による精神的ストレス、避難の長期化による健康への影響、ストレスと家族や市町村など多くのコミュニティの分断、放射線への不安がもたらすストレス、福島出身者への偏見や差別、いじめ、およびそれらに対する不安などです。
福島における震災関連死は約2100人。地震・津波などによる直接死約1600人よりも多く、今も増え続けています。これは他の被災県に比べて突出して多く、とくに震災関連自殺が問題になっています。事故直後、放射線の危険性を煽る報道による農漁業従事者の自殺もありました。
また、相馬市および南相馬市で避難経験を持つ人の糖尿病罹患率が1.6倍に増加しています。放射線不安やストレスから食生活のバランスが崩れたり運動が減ったりしていることの影響と考えられています。子どもの肥満も一時、全国1位になりました。体力低下を懸念する医師も多くいます。
福島で小さな子どもを育てる母親のうつ傾向、および虐待認知件数も明確に急増しています。
二次被害の深刻さは災害直後よりもむしろ、時間が経ってなお猛威をふるうことにあります。
震災直後の苦難を乗り越え作付けを再開した農家であっても、たとえば2016年12月1日にNHK仙台放送局の番組「被災地からの声」では、遠方に住む子供から「セシウムが入っているからいらない」との言葉を受け、稲作をやめてしまった方が紹介されていました。
こうした出来事を裏づけるかのように、福島県での自殺者数は原発事故後3年以降急増しました。 二次被害への対策の遅れが、このような被害を拡大させていると言えるでしょう。
「Fact Check 福島」の目標
以上のような危機的状況は、もちろん複合的な原因によってもたらされています。しかし、その主たる原因は、福島に関する誤った情報や社会不安を煽る言説にあります。 今、まず私たちが取り組むべきなのは、正しい情報が「伝わる」ように「伝える」こと、そして一人ひとりの不安を解きほぐす道を共に模索していくことです。
そのために、「Fact Check 福島」では、誤った情報や社会不安を煽る言説を検証・記録し、科学的な事実をわかりやすく解説するとともに、「不安」が起こる原因を解明し、その解消のための道筋を共に考えていくことを目指します。
どうぞ「Fact Check 福島」を応援してください!
「STOP!福島関連デマ・差別プロジェクト」事務局長・開沼博