会報誌に脱原発学習会報告「福島はレントゲン室と同じ」

2018年1月30日

2015年124日、大分県のグリーンコープ大分が、NPO法人「チェルノブイリへのかけはし」代表の野呂美加氏を迎え、脱原発学習会を開催。学習会の様子が20162月号の会報誌に掲載されました。

会報誌では、「チェルノブイリ(ベラルーシの避難区域)と日本(福島)の基準の違い」を比較した表が掲げられ、日本の避難基準が非合理的であるかのように示されています。

また、

チェルノブイリで起こって、福島でも起こったことは…
検査をしてもさして異常はないが、体調がおかしい。(鼻血・頭痛・腰痛・集中力がない疲れやすい等)検査しても病名はつかない。病名がつかないから病気ではないと言われる。
小児甲状腺がんの多発。

といった記述がみられるほか、

「福島はレントゲン室と同じですよ」と野呂さんは言います。一ヶ月の保養で体内の放射性物質は3070%排出されるそうです。

と野呂氏の発言が引用されています。

画像の出所

グリーンコープ大分「元気通信」20162月号
http://greencoop-oita.or.jp/wp/wp-content/uploads/2016/02/3a9b5e340d6330ea147ebb04d865b464.pdf

付記

2016年、グリーンコープは自社カタログの夏ギフトで「東日本大震災復興応援」とした企画を行っています。その際、6県ある東北地方から福島県だけを除外した東北5県の地図を表記しました。これに対し、「「東日本大震災復興応援」としながら、大きな被害を受けたはずの福島県だけを除外したのは福島への差別や排除ではないか」と多数の批判を受けました。

批判に対してグリーンコープは、「福島の商品がないなかで福島を表記してはいけないのでは」という理由から表記しなかったと説明し、「配慮がたりなかった」と謝罪しています。

・グリーンコープが学習会で講師として招いた野呂美加氏は、2012年に「原発事故が起こった直後、福島のあるお母さんがじゃがいもを切ったとき、切り口が紫色になったという。それだけヨウ素が放出されたのだ。」と発言しています。

ヨウ素溶液でデンプンが青紫色になる変化は良く知られていますが、空気中にある微量のヨウ素がこうした反応を引き起こすことはありません。じゃがいもが紫色に変色する現象は、放射性物質とは無関係にしばしばみられます。

参考リンク

商品Q&A「野菜・果物」
http://www.ucoop.or.jp/shouhin/qa/ve/veqa_5784.html

食品衛生検査所レポート
http://www.city.fukuoka.lg.jp/data/open/cnt/3/40916/1/No16.pdf

情報の検証

・ベラルーシ共和国の避難基準とされているものは、「事故当初の100mSv/年という避難基準から段階的に引き下げて5年後に制定された」避難基準です。しかし、こうした基準については、

防護措置は善意に基づく物ではあったが、一般に、放射線防護の観点から考えると厳格に必要であったであろうと考えられる範囲を超えている。移住と食料制限は範囲をもっと小さくする必要があった。(1991年、IAEA国際諮問委員会)

政府は、放射線汚染レベルに対し居住しても問題ないと考えられるような、非常に低い基準値を適用した。事故直後のソ連政府による避難区域等の基準に関しても同様に慎重な基準値が採択され、これがソビエト連邦の解体後、国の法令によって強化された。(20032005年、チェルノブイリフォーラム「チェルノブイリの経験」国連8機関及びロシア、ウクライナ、ベラルーシによる調査会合)

チェルノブイリの経験からいえば、モニタリングの結果として一番不幸と感じている方々は、「何かを強制的にさせられた人たち」である。そのため、自分の家の外に強制的に住まわせることが最も負の影を与える点を強調したい。年間被曝線量20mSv以内であれば、自宅に戻るための援助を行うべきと考える。(2012年、日・ウクライナ原発事故後協力合同委員会、ウクライナ大統領直轄戦略研究所ナスヴィット首席専門官)

とされており、「規制値を必要以上に厳しくしてしまったために、かえって別の被害が増大した」というチェルノブイリからの教訓が見て取れます。

実際に福島でも、被曝そのものではなく避難の影響によって、震災関連死の増加も含めた健康被害が増大したことが明らかになっています。避難すること自体にも大きなリスクがあるため、被曝による健康被害リスクが非難するリスクを上回る高線量でない限り、避難によってむしろ被害が大きくなってしまうのです。

累積100mSv(100,000μSv)未満の被曝による健康への影響は、一般的な日常の中にある他のリスクに埋もれてしまう程に小さいために、明確なリスクが確認できません。これがしばしば「低線量被曝の影響はわからない」と言われてきたことです。しかしながら、実際にはこの言葉が、低線量被曝に得体の知れない高いリスクがあるかのような誤解として社会に拡がりました。

・一方で、日本の避難基準設定は、チェルノブイリの反省と知見もある程度踏まえた上で、ICRP(国際放射線防護委員会)が示した、安全とされる年間20mSv100mSvの範囲のなかで、住民の安心を最優先し、事故直後の「1年目から」年間20mSvを避難の基準として採用しました。

参考リンク

年間20ミリシーベルトの基準について
www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/pdf/130314_01a.pdf

また現在では、避難が解除された地域で生活しても、実際の年間被曝線量は基準値とされた20mSvどころか、5mSvにすら達しないことが、多数の実測データから明らかにされています。福島のこれら地域よりも被曝線量が高くなる場所は、原発事故とは無関係に世界中でありふれています。

・「検査をしてもさして異常はないが、体調がおかしい。(鼻血・頭痛・腰痛・集中力がない疲れやすい等)検査しても病名はつかない。病名がつかないから病気ではないと言われる。」との記述は、いずれもがストレスなどさまざまな要因によって日常的によく起こる症状です。

学習会に先立つ2014年4月の時点で、UNSCEARから「福島の住民が受けた放射線量は低く、健康に悪影響は確認出来ず、今後も起こるとは予想されない」との報告書が出ています。症状を被曝由来だとするのは非科学的な思い込みであり、事実だとはいえません。

・「小児甲状腺がんの多発。」とありますが、甲状腺がんは無症状のまま一生を過ごす人がほとんどで、罹患しても気づかれないケースが多数あります。そうしたもともと存在していたものに対して、これまでにない範囲へのこれまでにないレベルでの精密検査を行ったことで、これまでにない数が「発見」されました。多発生ではありません。このことも、UNSCEAR報告書などで言及されています。

・「福島はレントゲン室と同じ」「一ヶ月の保養で体内の放射性物質は3070%排出されるそうです」という表現については、そもそも、福島では懸念されるような内部被曝がなかったことが明らかになっています。「レントゲン室と同じ」と形容しうるような外部被曝を受けることもありません。