自治体がデマを拡散する講演会を後援

2018年1月23日

2018年1月20日、茨城県土浦市にて、土浦市・土浦市教育委員会、つくば市・つくば市教育委員会後援のもと、作家の広瀬隆氏の講演会が行われました。講演会のチラシには、「原発事故後、福島では甲状腺がんの多発だけでなく、突然死、心臓疾患、脳血管障害などが急増」「子どもの甲状腺がんは200人以上発症」「危険な汚染地に住民を戻す政策が強行」などの文章があり、また福島で放射線の影響によってヤマトシジミチョウに奇形が起こっているかのような画像も掲載されていました。

これはデマを広めて人々を煽動しようとする活動家たちに、行政が利用されてしまった事例です。

画像の出所

講演会パンフレット

説明

この講演を行った広瀬隆氏は、『東京が壊滅する日──フクシマと日本の運命』という著書を2015年に出版し、「タイムリミットは一年しかない!」と危険を喧伝していました。今回の講演会は新しい書籍『日本列島の全原発が危ない! 広瀬隆 白熱授業』の出版記念講演とされています。

『日本列島の全原発が危ない! 広瀬隆 白熱授業』の版元はデイズジャパンですが、デイズジャパンの発行するDAYSJAPAN誌は以前、富岡町の震災以前からあった廃車置場の写真を「避難者が乗り捨てていった車」だとの誤った報道をし、謝罪に追い込まれたことがあります。

経過

・ジャーナリストの岩上安身氏が、自身が主宰するIWJという自主メディアでこの講演会をPRしました。

・つくば・土浦の両市には、開催前から後援に対する疑問の声や問合せが相次ぎ、産経新聞にて記事にされました。

「「日本列島の全原発が危ない!」講演会、講演の茨城・つくば、土浦両市に政治的中立性、科学的根拠を問う声も」(2018/01/18
http://www.sankei.com/life/news/180118/lif1801180054-n1.html

・結局、両市ともに後援の取り下げはせず、土浦市教育委員会では「政治的な発言をしないように」と主催者に重ねて伝えたのみで、そのまま当日を迎えます。

・当日の講演会では、広瀬隆氏からは原子力規規制委員会の更田(ふけた)豊志委員長に対して「妙な名前の男」「人殺し」「首根っこつかんでぶん殴ってやりたい」などの発言があったと産経新聞によって報道されました。

「作家、広瀬隆氏、原子力規制委の更田豊志委員長を「人殺し」と罵倒!」(2018/01/20
http://www.sankei.com/life/news/180120/lif1801200028-n1.html

・講演終了後に両市へ抗議をした方によると、つくば市からは、「講演会に担当を派遣して内容確認。問題があったと認識しており、部内での報告を行って対応を検討する」。土浦市からは「担当者が講演へ行った。福島への差別及び原子力関係従事者への差別がある内容と認識。市長部局と浅打合わせをし、今後同団体への対応を検討」との回答が得られたとのことでした。

・広瀬隆氏の講演会は、今後も3月31日に埼玉県川越市にて、川越市・川越市教育委員会後援のもと行われ、2月27日には自治体の後援はありませんが、宮崎市でも行われる予定になっています。

情報の検証

・パンフレットには「子どもの甲状腺がんは200人以上発症」とありますが、子どもの甲状腺がんは「発症」ではなく、いままでに無い規模での皆検査にもとづく、いままでに無い規模での掘り起こしによる「多発見」であると、UNSCEARや日本学術会議をはじめ、多方面から何度も報告されています。

世界中の専門家たちから集めた知見の集積である「UNSCEAR2013報告書」に反論を試みたとされる査読付き論文は津田敏秀・岡山大教授の一編のみです。この唯一の反論に対して、「UNSCEAR2016白書」では、「津田論文は甲状腺の高感度超音波検診の影響を十分に考慮に入れておらず、調査に重大な欠陥がみられた」として否定されており、「重大な異議とはみなしていない」として除かれました。

・「危険な汚染地に住民を戻す政策が強行されている」との主張に根拠はありません。福島県内の避難指定が解除された地域には現在、彼らが危険だと主張するための根拠としている年間20ミリシーベルトどころか、年間5ミリシーベルトの被曝をする地域すら実際にはありません。福島県内よりも放射線量が高い地域は世界中にありふれています。

・「体の外から測定しても、体内に取り込んだ放射能は測定できないのだが…」とありますが、パンフレットの画像はそもそも内部被曝測定の様子ではありません。また、すでにホールボディカウンターやベビースキャン、コープ福島による陰膳検査などの別の方法で、福島県民の内部被曝が高くなかったことは実測データとして示されています。

・ヤマトシジミチョウが放射線の影響で奇形を発生しているかのように画像が掲載されていますが、ヤマトシジミはもともと奇形が生じやすいとの研究があります。

Phenotypic plasticity in the range-margin population of the lycaenid butterfly Zizeeria maha
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2931505/

昆虫類が一般的には、人に比べて放射線被曝に対してケタ違いに強い抵抗力を示しているなかで、ヤマトシジミの奇形が放射線の影響であることを明確に証明したエビデンスはありません。

クマムシ博士のむしブロ
http://horikawad.hatenadiary.com/entry/20120813/1344814974

・福島でさまざまな健康被害が震災前よりも増加したのは事実です。震災での関連死は他県に比べて突出して多く、直接死の数を上回っています。しかし、その原因は放射線被曝などではなく、避難とその長期化に伴う生活の環境と習慣の悪化やストレスによるものです。そうした状況を作り出した原因の筆頭は一次被害としての東電原発事故ですが、その状況をより強く維持・促進させてストレスを増大させた要因には、繰り返されてきた事実無根のデマや風評、差別などの二次被害も含まれます。

本記事に関する基礎知識はこちら

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