「フクシマの原発事故の影響による奇形・魚の巨大化」というフェイクニュース

2017年11月18日

2015年8月、生物ライターの平坂寛氏が、知床沖でオオカミウオという巨大な魚を釣って、写真をネット上にアップしたところ、世界中で「フクシマの原発事故の影響による奇形・魚の巨大化」という記事の写真として無断で使用され、拡散されました。

画像の出所

平坂寛氏のブログ記事より
http://portal.nifty.com/kiji/151112195027_1.htm

拡散状況

・イギリスの大衆紙「The Sun」で取り上げられる。
https://www.thesun.co.uk/archives/news/112743/fisherman-catches-giant-mutant-sea-monster-near-nuclear-site/

The massive fish raises further questions about the impact that the 2011 Fukushima nuclear power plant disaster had on surrounding marine life. Last year, giant catfish were discovered close to the site of the 1986 Chernobyl nuclear catastrophe in Ukraine.

と、ウクライナで巨大魚が発見されたことと対比させつつ、このオオカミウオが福島第一原発由来の放射能汚染によって巨大化したかのように仄めかしています。

・中国の人民日報傘下の環球時報の電子版で取り上げられる。
http://world.huanqiu.com/photo/2015-09/2796178.html

・環球時報では次のように報じられる。

据《每日邮报》17日报道,日本渔民平坂宽在福岛核电站附近的海域捕获了一条惊人的巨型狼鱼,其可怕的外貌再次引发了人们对福岛海域生物变异的担忧。2015-09-17 15:09 来源:环球网综合 责任编辑:李大昕」(「デイリーポスト」によると、漁師の平坂氏が福島原子力発電付近で巨大なオオカミウオを釣り上げたが、その恐ろしい姿は人々にこの海域での生物学的な変異への懸念を引き起こした。)

・イタリア語のニュースサイトCityNewsで取り上げられる。
http://www.today.it/rassegna/pesce-gigante-fukushima-giappone.html

・ロシア国営メディアスプートニク(日本語版)で取り上げられる。
https://jp.sputniknews.com/japan/20150917909766/

オオカミウオは普通、太平洋および大西洋に棲息し、蟹や貝を食べる。体長はどんなに大きくても1.2メートルほどだ。平坂氏の獲物は2メートルにも達している。漁業関係者にとっては笑いごとではない。やはり福島第一原発の事故が近海の魚に悪影響を及ぼしているのではないか、との懸念が強まっている。既に日本のトロール漁船で放射線濃度が基準値の2500倍に達している魚が漁獲されている。

と、日本近海で海産物が汚染されているかのように報じています。

経過

・騒動の顛末として、平沢氏への取材記事がYahooのオンライン記事に掲載されています。
「オオカミウオ騒動とは一体なんだったのか!? 渦中の人物・平坂寛さんに直撃!」(20151119日)
https://promo-search.yahoo.co.jp/articles/schpickup/20151119100259.html

・一連の経過がtogetterまとめにされています。
知床のオオカミウオです!!→『フクシマのそばのホッカイドウで捕獲された放射能汚染の影響かもしれない巨大怪魚』
https://togetter.com/li/875439

2017年11月に、ツイッター上で2015年のスプートニクの記事を使って再拡散されました。

2017年11月現在、海外のフェイクニュース記事のリンクなども訂正されず、そのまま閲覧できる状態になっています。

情報の検証

水産庁の調査によると、福島県沖においてさえ、20154月以降、セシウム濃度が国の基準値(100ベクレル/kg)を超えた魚介類はゼロです。検出限界値(15ベクレル/kg前後)未満の割合は、同年7月以降は90%以上で推移しています。

また、そもそもSFでよくみられる「放射線により生物が巨大化する」という知見はありません。