「出前授業」を自治体や大手新聞社が後援

2018年3月28日

2018年4月1日、札幌市で「福島の子どもたちを守りたい!出前授業×トーク&ライブ」が開催されます。このイベントは北海道電力泊原発の再稼働阻止や、福島県に住む家族への保養活動の推進、保養所を設立することを目的とし、「福島の子どもたちを守る会・北海道」が主催するほか、札幌市、北海道新聞社、朝日新聞北海道支社、毎日新聞北海道支社が後援しています。

イベントでは、後述する川原茂雄氏による「かわはら先生の出前授業」が行われます。過去に行われた「出前授業」では、放射線と福島に関する誤った知識と情報が、繰り返し拡散されてきました。

福島の子どもたちを守りたい! 出前授業×ストリートライブ(「福島の子どもたちを守る会・北海道 / Future for Fukushima Children」)
http://fukushimakids.org/?p=1388

「かわはら先生の出前授業」とは?

「かわはら先生の出前授業」は、川原茂雄氏(元高校社会科教諭で現札幌学院大学教授、市民団体「市民の風・北海道」共同代表)が2011年5月より行っている講演会です。北海道内を中心にこれまで400回以上行われており、道内メディアでも複数回取り上げられ、書籍化もされています。

参考リンク

原発出前授業 本になった 札幌の高校教諭(「朝日新聞」2012年12月22日)
http://www.asahi.com/edu/articles/HOK201212220002.html

画像の出所

川原茂雄氏のFacebook
https://www.facebook.com/photo.php?fbid=1634866683264942&set=a.112428275508798.25757.100002248797702

情報の検証

ここでは過去の「出前授業」から、放射線と福島に関する誤った知識と情報について、代表的なものを検証します。

2012年12月1日 Live and Seminar vol.2「セミナー: 放射能ってなに?」
https://www.youtube.com/watch?v=EtcuKKFp4bA

川原茂雄氏 原発出前授業×ストリートライブ in チカホ(2013年3月30日)
https://iwj.co.jp/wj/open/archives/71427

2017.7.30 原発出前授業1
https://ssl.twitcasting.tv/hasirekaatyann/movie/391155048

180219 チカホ出前授業(今福島はどうなっているのか)
https://www.youtube.com/watch?v=fPVZ-Iohe4s

(1)福島第一原発3号機の「核爆発」説

翌々日、3号機が爆発します。ドッカーンと。明らかに1号機の爆発とは違うんですよ。〔中略〕1号機は白い煙だけです。ガス爆発。ところが3号機は白い煙がパーンっていった瞬間に、ピカッて光るんですよ。これ本当です。本当に光るんです。動画で見たことある、今でもネット上で見れるかも。ピカッと光るんです。そしてピカっと光った次の瞬間にズッドーンとどす黒い煙が、まさにキノコ雲のようにもくもくもくと立ち上がっていくんですよ。〔中略〕3号機は完全なガス爆発じゃないんじゃないかと、科学者によっては即発臨界という核爆発の一種なんじゃないかというふうに言ってるひともいます。そういうふうに主張されているひともおられます。これは、核爆発だと。(2017年7月30日 原発出前授業1)

「福島第一原発の3号機が核爆発だった」あるいは「即発臨界だった」という説は、アメリカのアーニー・ガンダーセン氏や広瀬隆氏などが提唱していたものです。しかし、一般に原子力発電に用いる燃料(ウラン235など)は、核分裂を起こさせるための工夫が必要なほど純度が低く、核爆発を起こすことはできません。また、即発臨界(核分裂反応と同時に出る中性子によって核分裂が連鎖的に起こる、制御不能な状態)が起きたとすれば、燃料プール内の燃料棒が激しく変形したり、周囲の状況が激しく破壊されたりといった状況が確認されるはずですが、2013年に3号機の調査が行われた結果、そういった状況は確認されませんでした。

参考リンク

福島第一原発3号機は核爆発していたのか?――原発事故のデマや誤解を考える(「Fact Check 福島」2017年11月10日)
http://fukushima.factcheck.site/article/1021

(2)放射線の知識について

一般人の年間被曝許容限度量は1ミリシーベルト以内にしてください。〔中略〕私達一般人が浴びる放射能の量は1ミリシーベルト以内にしましょう、これ以上浴びないようにしましょうということが国の法律で決まっています。実際には1ミリシーベルト浴びるなんてことはほとんどありません。ただ、まったくゼロではありません。ご存知宇宙からも自然界の放射線とかが飛んできています。でもね、それをいくら浴びても年間で1ミリシーベルトを超えてはほとんどないです。ただね、CT検査あれは気をつけてください。あれ1回1ミリ行っちゃいます。CTは意外に高いんですよ。(2012年12月1日 Live and Seminar vol.2「セミナー: 放射能ってなに?」)

ここであげられている「年間1ミリシーベルト」とは、十分に安全側にとった年間追加被曝線量の目安であり、それ以上浴びると健康リスクがあるというようなものではありません。また、日本人が自然から受ける放射線被曝の平均値は年間2.1ミリシーベルトです。X線検査やCT検査などによる医療被曝の平均は年間3.9ミリシーベルト。医療被曝線量による健康リスクより、放射線を使う検査や治療などによるメリットが上回ると考えられ、実際に日本人の平均寿命は男女ともに世界でトップクラスです。

参考リンク

医療被ばくリスクとその防護についての考え方 (放射線医学総合研究所)
http://www.nirs.qst.go.jp/rd/faq/medical.html

電球が放射性物質で光が放射線のようなものだよって教えるんだけど、私はこの教え方ってちょっとだめだと思うんですよ。なんでかというと光怖くないでしょ? 光突き抜けないんですよ。さっき行ったけど突き抜ける強さがこれじゃ伝わらないんですよ。この例えじゃ。だから私はですね、ピストルと弾丸とたとえ使っています。これ私のオリジナルです。(2012年12月1日 Live and Seminar vol.2「セミナー: 放射能ってなに?」)

目に見える光などの非電離放射線に比べ、放射性物質が出す電離放射線(一般的にはこちらのみを指して「放射線」と呼びます)を一度に大量に浴びると健康に影響を受けますが、十分に低い放射線による健康リスク(発がんリスク)は、加齢、喫煙などに比べて影響が小さすぎて観測できません。また、日本の法令で定められている放射線の基準値は十分に低い値です。

参考リンク

放射線に関する基礎知識(放射線影響研究所)
http://www.rerf.or.jp/radefx/basickno/whatis.html

放射線ってなんか基準を作るんですが100って多いんですよね、100ミリシーベルトとか100ベクレルとかよくあるんですけどもね、これ以上は危険でこれ以下は安全だっていうのは間違いです。いいですか、100ベクレル以下のものだったら安全なんですかって。95なら安全なんですか? 売られるんです95でも75でも7でもね、そんなわけないでしょ。100ミリシーベルトもそうです、100ミリシーベルトから超えたら癌の発生率が上がるけど、100ミリシーベルト超えなかったらもう癌ならない、そんなことはないんですよ。基準を超えたら危険、基準を超えなかったら安全なんていうのは安全っていうのはこれ勘違いです。どっちも三角なんですよ。(2012年12月1日 Live and Seminar vol.2「セミナー: 放射能ってなに?」)

100ミリシーベルト以下の放射線被曝では、他の要因と比べて影響が小さすぎて発がん率の有意な上昇が観測できないものの、「発がん率は被曝線量に比例する」と仮定して、さまざまな基準値が定められています。

食品中の放射性物質の基準値は、体が受ける放射線による影響としての「シーベルト」に換算して定められたものです。また、日本の現在の基準値100ベクレル/kgは、年間の追加被曝線量を1ミリシーベルトとした場合、市場に出回る食品の50%が汚染されていたと仮定した上で計算されたものです。また、実際には基準値ギリギリの食品も流通していません。

私が心配なのはこの緑色と白地域〔引用者注:航空値モニタリング地図を引用している〕ですね、年間でだいたい5ミリから10ミリくらいの汚染地域ですよね。ここにたくさんの人たちが生きてるんです、生活してるんです、何万人も。これ福島市・郡山市・いわき市と大都市があります。ここに沢山の人達が未だに……ソ連ではこの地域は避難義務区域・避難権利区域で国が避難を勧告したり義務を課したりして動かしている地域ですよ。いいですか、ソ連でさえやったことを日本行ってないんですよ? せいぜい20キロ30キロですよ。(2012年12月1日 Live and Seminar vol.2「セミナー: 放射能ってなに?」)

「年間5ミリシーベルト」は、ソ連崩壊後のベラルーシ共和国が定めた避難基準で、ソ連政府が事故当初に定めた「年間100ミリシーベルト」という避難基準から段階的に引き下げられたものです。しかし、この基準は「放射線防護の観点から考えると厳格に必要であったであろうと考えられる範囲を超えている。移住と食料制限は範囲をもっと小さくすべきであった」と評価されています(1991年、IAEA国際諮問委員会)。

今回の福島原発事故は、レベル7というふうに言われています。レベル7。で、原発のレベルは0から7まであるんです。一番ひどい、3.11の前まではチェルノブイリ原発事故が世界最大最悪の原発事故だったんですね。ところが今回の原発事故はそれを超えるものです。レベル7、チェルノブイリ原発事故と同じだろうというふうに言われています。違います。遥かに超えてると思います。なんでか?レベル8ってないんですよ。設定されてないからレベル7なんです。だけど、チェルノブイリ原発事故ってたった1基ですよ、たった1基の原発が爆発した。だからレベル7。福島は4ついってんですよ。4つ。ボカーンと。で、未だに収束してません。未だに放射能だしてる。私言うんですけど、レベル7に4かけてください。かける4です。レベル28ですよ。これくらい今回の原発事故は人類史上最大最悪の原発事故だと思うんですよ。間違いなく。(2018年2月19日 チカホ出前授業)

福島第一原発事故は、INES(国際原子力評価尺度)では、チェルノブイリ原発事故と同じレベルに指定されました。これは、原発そのものが再建不可能であることと、原発構外への放射性物質の放出量が一定基準以上であったことによる評価です。実際、福島第一原発事故により、福島第一原発の1~3号機は再建不可能な壊れ方をし、現在も廃炉工事を行っています。ただし、原発構外へ放出された放射性物質の量は、チェルノブイリの原発事故のおよそ1/7~1/10程度でした。INESの尺度で「レベル7」とされる放射性物質の放出量は、一定基準「以上」をすべて含むものであるため、「レベル28」という基準はありません。

(3)除染について

あの、除染といいますけども、除染作業が進んで放射能のレベルが下がってますよっていうふうに、確かにね、放射能は自然でもどんどんどんどん時間が経つと下がるんですよね。それから除染というけれども、道路から20メートルしかやらないんですよ。人の住んでるところから、家の庭から20メートル。道路から20メートル。20メートルから先は何もやってないんですよ。削ってもいない。そのままだけど放射性物質はまんべんなく降ってますからね。〔中略〕あとは当然雨降ったら流れ落ちてくるんです。風吹いたら落ちてくるんです、舞ってくるんです。結局削った瞬間は下がるけどもう1週間2週間、1ヶ月経ったらまたもとに戻ってきます。これはもう当たり前のことなんです。福島の7割から8割は森林です。全然手つかず。そのまんまになってます。だから風吹いたら舞ってくるんです。(2018年2月19日 チカホ出前授業)

原発事故から1年以上が経過すると、放射性物質は木や落ち葉から土壌へと移行します。放射性セシウムはそこに吸着してとどまる性質を持つため、「風が吹いて舞ってくる」ということはありません。

参考リンク

森林の除染等について(「除染情報サイト」環境省)
http://josen.env.go.jp/about/efforts/forest.html

(4)学校給食について

もっととんでもないのは給食で地元の野菜やお米食べさせてるんですよ、ありえないです。福島産のお米100ベクレル以下だからいいだろうって食わしてるんですよ。なんで北海道のお米食べさせないんですかっていうと、だって福島の米他で売れないから安いんだもんってそういう問題かよってね。(2012年12月1日 Live and Seminar vol.2「セミナー: 放射能ってなに?」)

もっとも恐ろしいのは食べ物です。いいですか、福島の学校給食は、地産地消だそうです。地元のものを食べさせる。いいですか、福島県はこの4月から地元のものを使ってください、ってね、で福島県教育委員会は、学校給食で地元のものをつかったら、補助金を出すそうです。〔中略〕たしかにね、100ベクレル以下、10ベクレル以下ですよ? でもね、10ベクレル以下のものを毎日食べて大丈夫なんですか? ってことですよ。私はすごく心配ですよ。(2013年3月30日 川原茂雄氏 原発出前授業×ストリートライブ in チカホ)

福島県では、給食(一食全体)を、ゲルマニウム半導体検出器を用いて放射性セシウムの測定を実施しています。この検出限界値は1kgあたり1ベクレルに設定されていますが、2016年度以降全ての測定で検出下限値を下回っています。それ以前に検出されたものでも1kgあたり10ベクレル(通常の検出限界値)を上回ったものはありませんでした(最大値2.53ベクレル/kg)。また、県産食品の使用率は現在平均3割程度であり、震災前の平均値と同等の水準です。

参考リンク

学校給食の放射性物質を測定しています(福島市)
http://www.city.fukushima.fukushima.jp/hotai-kyushoku/kosodate/kyoiku/kyushoku/12040401.html

学校給食における地場産物の活用状況調査結果(平成29年度実績)
http://www.kenkou.fks.ed.jp/kyushoku/29jibasannbutsu.pdf

付記

川原氏の出前授業への指摘は以前からあるものの、ネットでの指摘は受け付けないとしています。

北海道で3年間に300回続いてきた原発出前授業の内容
https://togetter.com/li/670502

続・北海道で3年間に300回続いてきた原発出前授業の内容
https://togetter.com/li/746510

2014年05月07日の記事一覧 – 詳細表示 – Yahoo!ブログ(コメント欄)
https://blogs.yahoo.co.jp/skawahara1217/archive/2014/05/07