子どもの甲状腺がんについて「過剰診断説」と「被ばく影響説」が不公正な両論併記

2017年11月20日

2016年37日、「毎日新聞」が、福島第一原発事故の後に福島県が県民健康調査の一環として実施している子供の甲状腺検査について報道しました。

その中で、福島県でそれまでに見つかった子どもの甲状腺がんについて、「放射線の影響とは考えにくい」という検討委員会などの見解に対し、「専門家の間でも意見が分かれる」と述べました。

その上で専門家の「2説」として津金昌一郎氏(国立がん研究センター長)らの説を「過剰診断説」とし、津田敏秀氏(岡山大教授)らの説を「被ばく影響説」としてあげ、いわゆる「両論併記」をしました。

これはメディアによる公正を欠いた両論併記です。

画像の出所

「毎日新聞」朝刊(201637日)

情報の検証

津金氏らのあげる根拠である「推定される被ばく量がチェルノブイリよりはるかに少ない」は、20163月の福島県県民健康調査検討委員会の中間とりまとめの見解のひとつです。これは、国連科学委員会が2013年以降、2015年、2016年、2017年と、原発事故後に世界の専門家から出された査読付き論文を検討した上で報告した見解と一致しています。(なお、この記事が出た時点では、2015年までのUNSCEARによるレポートが公開されています。)

また、「韓国では大人の甲状腺検診をしたところ患者数が15倍に増えた」「子供の甲状腺がんは進行が早いとされるが、亡くなる患者は少ない」という見解は、現在甲状腺の専門家の間でのコンセンサスとして、多くの査読付き論文も発表されています。

一方、津田氏らのあげる根拠である「原発に近いほど発生率が高く、遠くでは低い」は、国連科学委員会の見解に反論を試みたものですが、この記事の後2016年の国連科学委員会の報告で、この意見(津田氏の論文)は検討されたのちに調査の計画と方法には偏りが生じやすいものであるとされた上、「重大な異議とはみなしていない」と除かれました。

また、津田氏「ら」と複数にされているものの、国連科学委員会の2013年の報告に反論を試みたとされる査読付き論文は、津田氏の1編の論文のみです。

津金氏らの説は国連科学委員会が世界中の査読付き論文を検討した上で出された見解を踏襲した説であり、国際的な専門家の合意といえるものです。この説と、1編の学者の論文とを「両論併記」することは公正な報道とは言えないでしょう。

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