「Fact Check 福島」へのご批判に応えて

芹沢一也

2018年4月5日

読者のみなさま、いつも「Fact Check 福島」の記事をお読みいただきありがとうございます。この度、私たちの配信した記事に対し、いくつかのご批判やご意見をいただきました。それらを踏まえて、改めて「Fact Check 福島」の編集方針について見直し、反省点と改善点を吟味しておりました。 

とくに今回多くのご批判を受けることになったのは、辛淑玉氏の講演への批判記事がきっかけでした。この記事が彼女への差別的攻撃に便乗するために、3年も前の出来事をわざわざ蒸し返したのだというのは、誤解です。他の記事もご覧になっていただければ分かるように、「Fact Check 福島」では直近の出来事にかぎらず、事故から今日までのさまざまな出来事を振り返って記事にしており、記事は長い時間をかけてつくったものです。辛淑玉氏に対する不当な差別的攻撃がなされている時期に重なったのは、決して意図するものではありませんでした。 

Fact Check 福島」は福島とその住民に対する不当な攻撃は許しませんが、そのために他の差別を利用する意図は一切ありません。今回、辛氏に批判的な人、とくに排外的な思想をもつ者が、当記事を利用するかたちで攻撃を加速させたこと。そこに加担することになったのは不本意であると同時に、強い反省を抱くものです。 

このような事態になったのは、そもそも当該の記事が「ファクトチェック」として要求される記述を逸脱し、過度に攻撃的なものであったことに起因するものです。落ち度は私たちの側にあります。私たちはこの反省にたち、分断を煽ることなく、しかし人びとの不安を煽る誤った情報については正確に指摘しつづけたいと考えています。 

改めて、私たちの活動の目的は何か。私たちの活動の最大の目標は、「福島の人びとが、震災・事故後の生活を幸せに送るための一助となること」です。 

この目標の障壁になっている問題はたくさんあります。医療機関の少なさ、農家の後継者問題、人口減少、生活インフラの整備などなど。現地には、じつに多くの課題があります。そして、これら一つひとつを解消するために、日々努力や苦労を重ねていらっしゃる方々がいらっしゃいます。 

私たちはこれらの問題のうち、ウェブ上で情報を整理し、「誤った情報の拡散や不安の過度な助長、差別や偏見、またいわれのない中傷などをなくす」ことによって、障壁を取り除くお手伝いをしたいと考えております。 

私たちは福島県の住民、日本のすべての住民が原発事故に対して抱いている不安を理解し、共感するものです。あの事故が、どれだけ多くの恐怖と不安を、そして日常生活への変化をもたらしたか、忘れるわけにはいきません。 

事故後のエネルギー転換の見通しのなさ。再稼働の議論に際して「地元意見」の範囲に線引きが行われ、避難計画さえ十分に行われていないこと。見通しの立たない廃炉や最終処分。情報公開に消極的な行政の姿勢。原発事故以降、多くの問題点が山積みになっています。 

チェルノブイリの事故を見れば分かるように、そもそも原発事故は、広範囲に人が住めなくなるような大惨禍を引き起こしうるものです。そして、過去の悲惨な公害において、行政が被害を否認したり、情報を適切に公開しなかったりした事例が多々あることを考えると、人びとが不信と不安を抱くのは当然のことであると考えています。 

なにより、重大な健康被害が生じうるのであれば、それに対して取るべき医療や福祉上の措置を取らないことは、それこそが看過できない不公正ないし差別であると考えます。そうした事態が根拠にもとづき明らかになった際には、世の中に警鐘を鳴らす役割を率先して担っていくつもりです。 

しかし、こと2011311日の福島第一原発事故に関すれば、全容解明のための国際的な科学的協業により、放射性物質そのものによる直接の重大な健康被害の可能性は否定できることがすでに明らかになっています。こうした知見と照らし合わせたとき、「福島は危険だ」という発言が一人歩きするのではなく、「この地域はこう」「この食品はこう」「この課題はこう」といった、具体的なファクトを丁寧に確認していくことこそ、人びとが安心して暮らすためには不可欠であると考えています。 

もちろん、避難者の権利や、自主的なものも含めて避難を余儀なくされたことによって生じたさまざまな健康被害も見逃せず、行政や東京電力には広く責任を果たす義務があると考えておりますし、このことはこれからも問題提起していきたいと思います。 

私はいま、このプロジェクトの運営をしてみて、プロジェクトの責任の重さ、そして正確な情報を伝えること、「フェイク」「ファクト」を解読していく作業が、どれほど苦悩の深いものなのか、どれほど難しいものなのか、そして多くの時間と知識、多くの方々のご協力がいかに必要であるかということを痛感しています。 

国内外のさまざまな場で語られてきた「福島のこと」を調べると、明確に誤った情報ばかりではなく、曖昧な表現で科学的に必ずしも正しくない印象を与えるような情報に数多く出会います。 

「この情報のどんな点が、どうしてこんな風に、これほどまでに福島についての誤った印象を与えているのだろうか?」こうした点をめぐって、私自身いつもずっと頭を悩ませ、メンバーや外部の人びとに相談もし、毎回何時間も議論を繰り返しています。 

それは「炎上したくないから」ではありません。安易に「デマ」であると何かを糾弾し、無用の軋轢を生んでしまうことで、「科学的に正しい情報」がまっすぐに伝わらなくなることを懸念するからです。しかし、今回のご指摘を受けて、「Fact Check 福島」のファクトチェック体制、コミュニケーション方法に不十分さ、改善の必要があると感じ、厳密性をさらに強化しなければならないと痛感しております。 

私たちが集い、活動を開始して、ちょうど一年を迎えます。 

クラウドファンディングを行い、ツイッターを開設し、そして「Fact Check 福島」をスタートさせることもできました。この間、読者のみなさまに多くのご意見をいただきました。また、運営母体であるシノドス国際研究所理事の高史明氏やシノドス元編集長の荻上チキ氏、シノドスの執筆者や支援者の方々からも、ご批判とともに建設的なご意見をいただきました。 

荻上氏や高氏は、「Fact Check 福島」の運営や記事作成には関わっていませんでしたが、問題発覚後、両氏からは、人権的見地を含め、具体的な問題点や改善点などを提案されました。執筆者の方々や読者の方々からも、批判だけでなく、具体的な提案を多くいただきました。当初はその指摘をうまく消化できず、感情的に反発してしまったこと、まことに稚拙であったと思います。 

これらのすべては、「シノドス」の活動を信頼し、「「Fact Check 福島」を支えたい」「高い信頼を維持してほしい」という願いと期待、ご厚意からのものであると思っています。この場を借りて、ご意見をお寄せいただいたみなさまに、改めて感謝いたします。本当にありがとうございます。 

みなさまからのご意見を踏まえ、このたび「Fact Check 福島」の表現を全面的に見直すことにしました。そして、「Fact Check 福島」というサイト、さらには「ファクトチェック」という試みそのもののクオリティをより高い水準で担保し、科学的な正しい情報が曇りなく伝わるようにと改善いたします。この試みだけでなく、「ファクトチェック」という手法そのものに対する疑義がつけられる可能性のある状況であると強く認識した上で、信頼構築に努めていきたいと思います。 

具体的な改善点は、おもに「Fact Check」コーナーの記事における2点です。 

まず、これまでの「Fact Check」コーナーの記事には、「この事例は●●である」と、事例を記録した理由を表示する枠がありました。この枠につきましては、「(記者の)主観的な評価に見える」などのご意見をいただいたため、今回のリニューアルですべて廃止いたしました。 

もう1つは、「Fact Check」コーナーの記事のタイトルなどから、「デマ」などの用語、強い非難の語調を除きました。これまでのタイトル(「●●というデマ」等)は、SNS等では見出しやタイトルのみが伝わることも多く、誤った情報について曖昧な表現を用いることはかえってその誤情報の拡散に加担しかねない、という考えのもとに作られてきたものでした。しかし、過度に攻撃的なタイトルになるため、分断をより加速させてしまうと考え直しました。 

Fact Check」コーナーだけでなく、「基礎知識」コーナー、「記事・寄稿」コーナーは、引き続き充実させてまいります。これらのコーナーは、専門家の方々にその都度、監修を依頼しておりますが、科学的事実はもちろんのこと、より全般的な記事の作成の手続きを丁寧に行なっていきます。もし本件のように重大な疑義がなげかけられた場合には、真摯に受け止め、編集部だけに閉じない仕方で意見と検証を行うことといたします。 

「なぜこんな活動をしてるんだ?」こう言われることがあります。 

もともと、別サイトである「シノドス」も、無料で記事公開をしております。ウェブメディアは無料で記事を提供する場合、収益は広告によることになります。そのためにはPVを最大化することが至上命題となり、記事はそれによってさまざまな制約を受け、あるいは方向づけられます。しかし「シノドス」はこの路線をとりませんでした。 

それよりも、執筆者に自由に議論を展開していだくことを目指しました。「シノドス」がほかのウェブにない特徴をもっているとすれば、それはこの自由に過不足なくご執筆いただく、というところにあります。編集長だった荻上チキ氏はかつて、そんなシノドスを「研究者の自由区」と評しました。そうした発信方法を続けてこれたのは、とても喜ばしいことであると思っています。 

Fact Check 福島」も、現在クラウドファンディングで支援を求めるようになっていることから分かるように、サイト運営で収益をあげることは想定していません。電力会社や政府などからお金をもらっているのではないか、というような趣旨の批判もいただきましたが、その指摘は事実に反しますし、金銭的な余裕はありません。(※)それでも活動するのはなぜなのか。 

それは、福島の人びとがいま受けているデマも、中傷も、あまりにも不当なものであると考えるからです。なぜ彼らは震災・事故に苦しめられた上に、さらにデマや中傷にさらされなければならないのか。取材のなかで、福島や放射線についての誤った情報に起因する差別もたくさん耳にしました。 

だれかがこの問題に取り組まなければならない。そして、実情を知ってしまったからには、たくさんの葛藤と逡巡はありましたが、この活動に協力することを決めました。 

Fact Check福島」は、発足してまだ間もないとても小さな試みです。日々学び、成長できるように、みなさまのご意見・ご支援を引き継ぎお願い申し上げます。どうか、今後とも微力な私たちへのご指導を、よろしくお願いいたします。 

Fact Check 福島」メンバーを代表して 芹沢一也

 (※)この声明文を執筆中、記事を一件、削除しました。私たちはQ&Aで「電力業界や原発を推進する政府・行政から金銭的、人員的な支援は一切うけません」と規定していますが、インタビュー対象者の活動に対し、この条件に抵触する可能性の疑義が向けられていること、当サイト自体は関与していないものの、背景が確認できていない状況では、公開を取りやめるのが妥当であると判断しました。また、記事からの名寄せによって、対象個人への個人批判に加担することを避けることも考慮しました。